もっちり、ふわふわ、形も食感もいろいろ
世界各国のご当地パンケーキを訪ねて
「パンケーキ(pancake)」は、平たい鍋(パン、フライパンなど)で焼くケーキの総称で、ホットケーキもその一つです。基本的な材料は、小麦粉、卵、砂糖や牛乳(または水)、必要に応じて、ベーキングパウダーやイーストを加えることもあります。素朴な味わいと、簡単に作れるのが魅力で、世界各国で様々なパンケーキが愛されています。ところ変わればパンケーキも......ということで、スイーツジャーナリストの平岩理緒さんに世界のパンケーキをご紹介いただきました。
「パンケーキ」というと、皆さんはどんなものをイメージしますか?
バターとメープルシロップでいただくお馴染みのホットケーキでしょうか?
フルーツやホイップクリームがたっぷり添えられたふわふわ系、もっちり系のスイーツ?
ホテルの朝食などでベーコンやソーセージ、卵と一緒に食べる薄焼きのパンケーキ?
形や味、食感もそれぞれですが、これらはすべて「pan」=フライパンや平たい鍋(鉄板なども含む)で焼いたケーキ、という意味で「パンケーキ」と呼ばれています。
発祥は古代ギリシャ、初めて文献に登場したのは16世紀とされ、長い歴史とともに世界各国で親しまれているパンケーキ。基本的な材料は、小麦粉、卵、牛乳、砂糖、イーストやベーキングパウダーといった形でシンプルですが、地域や家庭によって材料の配合や焼き方、食べ方などはバリエーションに富んでいます。たとえば、卵は全卵を加えるタイプもあれば、卵白と卵黄を分けて卵白をメレンゲ状にして加えるものもあります。
中央ヨーロッパ圏のパンケーキは同じものでも呼び名が変わります。ドイツ語圏のオーストリアでは、薄焼きクレープ状で具材を巻くスタイルの「パラチンケン」というパンケーキがありますが、ハンガリー語なら「パラチンタ」、チェコ語なら「パラチンキ」と呼ばれています。
北欧のパンケーキは、ベーキングパウダーを入れずにクレープのように薄く焼くのが主流です。それとは別にフィンランドでは「パンヌカック」と呼ばれる、オーブンで焼く四角いパンケーキもあります。もっちりとした食感が特徴で、スウェーデンでは「パンカーカ」と呼ばれています。北欧では甘味が少なく、ベリーなどのフルーツソースと一緒に食べるのが人気です。
一方、アジア圏でも様々な種類のパンケーキが食べられています。インドには「マルプダ」「マルプア」と呼ばれる、お祝いのときに焼くパンケーキがあります。セモリナ粉を使い、卵を入れずに、レーズン、フェンネル、カルダモンなどを入れるのが特徴です。
おやつとして食べるもの、甘味はほとんどなく食事として楽しまれるものもあり、世界の様々な地域でパンケーキがいろいろな形で愛されていることがわかります。ヨーロッパ、アメリカ、アジアなど、各国のご当地パンケーキをご自宅でも再現して、旅気分を味わってみてはいかがでしょうか。
※国旗をクリック頂くと各国のパンケーキをご覧いただけます
フィンランドで有名な「ムーミン」の物語の中で、"ムーミンママがパンケーキを焼いて皆で食べる"シーンが登場しますが、それが「パンヌカック」といわれるものです。フライパンではなく、天板に生地を流してオーブンで大きく焼き、それを四角く切り分けて食べるのが特徴です。パンヌカックの生地は、小麦粉に対して卵と牛乳の量が多めで、フレンチトーストのようなむっちりとした食感。ホイップクリームを添えて、ベリーのソースをたっぷりかけるのも北欧らしい食べ方です。
「クランペット」はイギリスの伝統的な食べ物の一つで、朝食やアフタヌーンティーなどいろいろなシーンで登場する国民食でもあります。生地は卵を加えず、小麦粉、牛乳、イースト、塩などを合わせ発酵させて焼くため、パンのようなもっちりとした食感。フライパンで焼くときに、炭酸ガスが抜けて表面にプツプツと穴が開いた見た目も特徴的です。ジャムやマーマレード、イギリスではお馴染みのゴールデンシロップなどをかけていただきます。形は円形が定番ですが、現地のスーパーマーケットでは四角いものも売られています。
オランダでは、人気の専門店があり、ミックス粉も販売されているほどポピュラーな「パンネクック」。直径30㎝ほどもある薄いパンケーキで、生地は牛乳と卵が多めのクレープとパンケーキの中間のようなもっちりとした食感です。大きめのフライパンや鉄板に生地を薄く広げて焼き、ジャムやホイップクリーム、アイスクリームをトッピングしてスイーツとして食べたり、チーズやハムなどをのせたりして食事として楽しむこともあります。
スキレット鍋(鋳鉄製鍋)に生地を流しオーブンで焼き上げる「ジャーマンパンケーキ」は、小麦粉に対して卵と牛乳の割合が非常に多く、ふわっと軽やかな食感が特徴。レモン汁をたっぷり絞り、バターをのせてとろっと溶けたところで食べるのが定番です。「ダッチベイビー」という名前でも有名で、1900年代前半にアメリカ・シアトルにあったカフェで命名されたといわれています。ドイツ風のパンケーキということで、ビスマルク、ダッチパフとも呼ばれています。
「カイザーシュマーレン」は、オーストリアの有名なデザートの一つ。オーストリア皇帝、フランツ・ヨーゼフが好んだお菓子といわれています。一般的なパンケーキは円形ですが、これは細かく切ってあるのが最大の特徴。その由来は「宮廷のコックがパンケーキ作りに失敗して、細切りにアレンジしたのが最初」など、諸説あるようです。生地は卵黄と卵白を分け、卵白をメレンゲにして加えて焼き上げるため、表面はカリッと、中はふわっとした食感。ラムレーズンを生地に混ぜ込んで焼いたり、あんずのソースを添えたりして食べるのが好まれています。
フレンチレストランの華やかなデザートとして知られる「クレープシュゼット」。起源については諸説ありますが、1895年、当時イギリスの皇太子だったエドワード7世が、恋人のシュゼットを連れてモナコのレストランを訪れた際、料理人のアンリ・シャルパンティエ氏が振る舞ったというストーリーもあるそう。小麦粉、砂糖、卵、牛乳に溶かしバターを加えた生地をひと晩寝かせ、フライパンで薄く焼いた後に重ね、グランマルニエ(オレンジリキュール)をかけてフランベする(火をつけて炎を出しアルコール分を飛ばす)演出が有名。また、フランスでは毎年2月2日(クリスマスから40日目)にクレープを焼いて家族や友人たちと楽しむ「La Chandeleur(ラ・シャンドルール)」(聖燭祭)という伝統的な祝日もあります。
18世紀から20世紀初頭までイギリスの統治下にあったオーストラリアは、食文化においてもイギリスの影響を受けています。そのため、オーストラリアのパンケーキ「パイクレッツ」はイギリスの「クランペット」と形状も作り方もよく似ています。生地にはイーストを入れるのが定番で、卵や砂糖は加えないのでもっちりと食べ応えのあるパンのような味わい。バターやホイップクリームなどを添えておやつはもちろん、軽食としても親しまれています。
その名の通り「シルバーダラー」(1ドル銀貨)に見立てたパンケーキ。アメリカンダイナーでよく見かけるメニューで、直径3㎝から7㎝ほどの小さなパンケーキが皿に並んでおり、バター、フルーツソース、アイスクリームなどを添えて食べます。生地は日本のホットケーキに近く、小麦粉、卵、牛乳で手軽に作れるので、ご家庭でホットプレートを使って作っても楽しそうです。現地では、鉄板に丸い穴がたくさん開いていて一度に何枚ものシルバーダラーパンケーキが焼ける、専用の製菓道具も販売されています。ダイナーに行くと、子どもや女性だけでなく、スーツを着たビジネスマンがパンケーキを食べているのもアメリカらしい光景です。
朝食として食べられることが多い「パンケッカ」は、ブラジルの"おふくろの味"として家庭で親しまれています。クレープ風のパンケーキの生地に、牛乳、小麦粉、卵、粉チーズを混ぜ込んで薄く焼くのが特徴。チーズの塩気ともっちりとした食感がスイーツ系のパンケーキとはひと味違います。また、食べるときは円形に焼いた生地をくるくると棒状に巻いて皿に並べ、そこにトマトソースやミートソースなどボリュームのあるソースをかけるというのが定番のスタイルです。朝のパワーチャージにピッタリの一品です。
「ホットク」は、韓国屋台スイーツの定番。香ばしく焼けた熱々のホットクをハフハフしながら食べるのが、韓国の冬の風物詩にもなっています。ホ(胡)は中国、トク(トック)は餅という意味で、19世紀末に中国から移住してきた中国人商人が広めたものといわれています。小麦粉やもち米にドライイーストを加えて発酵させた餅のような生地が特徴で、粉も強力粉を使い白玉粉やごま油を加えることもあるようです。円形状の生地に黒糖やシナモン、黒蜜、あんこなどを包んで鉄板に押し付けながらカリッと香ばしく焼き上げます。
お話を伺ったのは
平岩 理緒さん
マーケティング業界を経て製菓学校で学ぶ。国内外の菓子を食べ歩き、情報を発信。商品開発支援や講演など幅広く活動。「おとりよせネット」達人、「日経新聞」ランキング審査員、「Yahoo!ニュース」執筆等も務める。情報WEBサイト「幸せのケーキ共和国」主宰。著書・監修に『まんぷく東京 レアもの絶品スイーツ』(KADOKAWA)、『厳選スイーツ手帖』『厳選ショコラ手帖』(世界文化社)など多数。
幸せのケーキ共和国
http://shiawasenocake.net/
2022年9月