世界はどんな対策をしているの?

年間800万トンのプラスチックごみが世界中の海に流れ込み、2050年までに海洋中のプラスチックの量が、魚の重量を超えると予測されています。このままでは、私たちに日々の糧を与え、育んでくれた豊かな海を未来の子供たちに残すことはできません。海洋プラスチック問題は日本だけでなく、世界全体で取り組むべき問題となっているのです。そうしたなか、世界で、また日本では何が起こり、どのような対策がとられているのでしょうか。環境問題を研究する松本真由美さんに、その現状をお聞きしました。

気軽に「ポイ捨て」されたプラスチックが海にたまり続ける

毎日の生活のなかで、どれほどのプラスチックに触れているのか数えてみましょう。5個?10個?30個?......。いえいえもっとあるはずです。朝起きて歯磨きに使うのは?メイク道具は?仕事の合間に飲むコーヒーやジュースの容器は?etc.。家庭内のプラスチックを数えるだけでも一苦労です。しかも、日本ではほとんどのプラスチックが使い終わったら"ごみ"として処分され、分別はおろか、なかには「ポイ捨て」されることがあるのも事実です。

道端に捨てられたペットボトルは雨や風に運ばれ、やがて海へ。

「プラスチックによる海洋汚染は地球規模で広がっており、遠く離れた北極や南極でも『マイクロプラスチック』と呼ばれる小さなプラスチックが観測されたとの報告があるほどです。マイクロプラスチックとは、5mm以下の小さなサイズのプラスチックごみのことですが、目に見えないくらい微細なものもあり、世界中で大きな問題となっています」と松本さん。

マイクロプラスチックは発生源の違いから大きく2種類に分けられます。一つは環境中に流れ出た大きなサイズのプラスチックが小さな破片となったもの。もう一つは洗顔料や歯磨き粉などのスクラブ剤に入っているマイクロビーズ(マイクロサイズで製造されたプラスチック)と呼ばれるものです。

「例えば、街中に捨てられたペットボトルやレジ袋などは、風や雨などによって側溝に流れ込み、川から海へと運ばれます。紫外線や波の影響を受けてもろくなり、やがて小さな粒子になりますが、マイクロプラスチックは微生物などによって分解されないため、半永久的に海のごみとしてたまり続けてしまうのです」

海に流れ込んだプラスチックごみは、たくさんの生物の命を脅かしています。
図6 小さな破片となったプラスチックは、生き物の食物連鎖にも大きな影響を与えます。

また、プラスチックごみとして分別回収されているペットボトルや食品トレーなどの包装容器だけでなく、クレンジング剤やメイク用品にもプラスチックが含まれているものがあります。意外かもしれませんが、ワンデイタイプのコンタクトレンズもプラスチック。しかし、利用者のなかには使い捨てのコンタクトレンズを使用後に排水溝へ流してしまう人もいるのだそう。何気ない日々の生活習慣で家庭の排水溝から海へと目に見えない大量のプラスチックごみが流れ出ているのです。

プラスチックごみは、気付かないうちに体の中に

「学術誌で発表された新たな研究論文によると、海の最も深いところに大量のマイクロプラスチックが積もっているという調査結果があります。海にたまったマイクロプラスチックを小さな魚が食べ、その魚をウミドリや大型の魚が食べ、食物連鎖を通じて、私たちの体内にも蓄積されるリスクが指摘されています。人間の便を調べたところ、人種や住む地域にかかわらず、マイクロプラスチックが混じっていたという研究報告もあるほどです」

世界中でレジ袋や使い捨てプラスチックを規制

「現在のようにマイクロプラスチックごみが注目される以前から、ヨーロッパではレジ袋の規制が始まっていました。きっかけとなったのが、1991年にイタリアの海岸に打ち上げられたクジラの胃から50枚ものレジ袋が見つかったというニュースです。これを機に、それまで無料配布されていたレジ袋を有料化する動きがヨーロッパで高まり、2018年6月に発表されたUNEP(国連環境計画)の報告書によると、世界の127カ国がレジ袋の法規制を実施し、83カ国は無料配布を禁止しています」

買い物のたびに受け取るレジ袋、いつまでもらい続けますか?

また、マイクロビーズを含む化粧品や洗浄剤は、アメリカ、韓国、フランス、イギリス、カナダなどの国々が製造をすでに禁止しています。

「EU(欧州連合)は2019年5月21日、海洋汚染を防止するため、使い捨てプラスチック製品の流通を2021年までに禁止する法案を採択しました。ストローやカトラリー(フォーク、スプーン、ナイフなど)の使い捨てプラスチック製品が禁止の対象になります。中国でもEU並みの禁止規制を導入していく計画を発表しています。世界中でワンウエイプラスチックともいわれる使い捨てプラスチックの削減が進んでいます」

プラスチックごみを削減するための各国の取り組み

国名 取り組み

フランス

使い捨てプラスチック容器を原則使用禁止

イタリア

マイクロプラスチックを含有する洗い流せる化粧品の製造、マーケティングを禁止

イギリス

2020年10月より、プラスチック製ストロー、マドラー、綿棒の配布および販売を禁止する予定

台湾

2019年から2030年にかけて、段階的にプラスチック製ストローを完全使用禁止、小売店における無料のプラスチック製ショッピングバッグ、使い捨て容器などの提供を禁止

サウジアラビア

厚さ250ミクロン以下のポリエチレンまたはポリプロピレンを使用した使い捨てプラスチック製品の製造・輸入を禁止

ケニア

プラスチック製レジ袋の輸入・製造・使用・販売を禁止

プラスチックごみは、放置されれば街や自然の美しさを損ねるだけでなく、マイクロプラスチックとなって海を汚し、様々な生き物や私たちの体に影響を及ぼす可能性があります。また、プラスチックの原料は石油なので、燃やせば二酸化炭素(CO2)を発生し、地球温暖化を進める原因にもなります。地球温暖化により世界的に異常気象の発生頻度が増えて、豪雨や干ばつなどの自然災害を引き起こす可能性が高くなります。プラスチックごみ問題は海、空気、そして大地につながる大きな問題なのです。

お話を伺ったのは

松本 真由美さん

松本 真由美さん
専門は環境・エネルギー政策論・科学コミュニケーション。研究テーマは、「エネルギーと地域社会との共存」「企業の環境経営動向(ESG投資、SDGsほか)」など、環境とエネルギーの視点から持続可能な社会のあり方を追求する。大学在学中から、TV朝日の報道番組のキャスターなどを経て、NHK BS1でワールドニュースキャスターとして「ワールドレポート」などの番組を担当した。2008年より研究員として東京大学での環境・エネルギー分野の人材育成プロジェクトに携わり、14年より現職。現在は教養学部での学生への教育活動を行う一方、講演、シンポジウム、執筆など幅広く活動する。政府の審議会・委員会の委員も務める。

2020年6月

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